ばね指 (弾発指)・腱鞘炎の原因と治療・対処法

腱鞘炎(けんしょうえん)・ばね指について

腱鞘炎は中高年の女性に多くみられる、手の指の痛みや引っかかりを主症状とする病態です。特に手の指は、生活の中で使用頻度が最も高いといっても過言ではない部位であるため、腱鞘炎になると多大な支障をきたします。
腱鞘炎が悪化すると、ばね指と呼ばれる病態がみられることもあります。ばね指も生活にさまざまな支障を生じさせてしまいます。こちらでは、腱鞘炎、ばね指についての症状、原因、予防・治療方法などについて解説していきます。

腱鞘炎とは

腱鞘炎とは、その名の通り腱鞘という部位が炎症を起こしている状態です。指には腱という筋肉と骨をつなぐ細い筋(すじ)のような組織があります。指を動かす時には、筋肉が収縮するのですが、その収縮する力を伝えているのが腱の役割です。その腱が浮き上がらないように、固定するバンドのような役割を果たしているのが腱鞘になります。
指を曲げ伸ばしすると、腱が腱鞘の間を通過するのですが、その際には摩擦が生じます。この摩擦の繰り返しによって腱鞘に微細な損傷が生じて炎症を起こした状態が腱鞘炎になります。腱鞘炎になると、指の曲げ伸ばしをするたびに痛みが生じたり、熱を持って腫れ上がったりする症状がみられます。
症状は親指から小指まで、どの指にも生じる可能性がありますが、親指の付け根に生じる腱鞘炎は「ドケルバン病」と呼ばれています。

ばね指

ばね指とは

ばね指とは、腱鞘炎が悪化して生じる病態です。腱鞘炎が悪化すると腱または腱鞘が腫れ上がってしまい、腱が腱鞘を通過する際に引っかかりが生じます。引っかかった腱が腱鞘を通過する際に、「カクン」とばねのように勢いよく指が動くため、この病態は「ばね指」と呼ばれています。

ばね指の症状

ばね指は、指を曲げ伸ばしして引っかかった際に痛みが生じるのが主症状ですが、なかには引っかかっても痛みが生じないケースもあります。患部を指で触ると、しこりのような硬さが感じられることが多いです。
また、指が曲がったまま自分の力では伸ばすことができなくなったり、逆に伸びたまま曲げられなくなったりする「キャッチング現象」がみられることもあります。

ばね指の原因と病態

ばね指の原因と病態について解説していきます。

■ 原因

ばね指の原因で最も多いのは、仕事や家事などによる指の使い過ぎです。特に指の細かい作業をする方に多く生じるのが特徴です。
また、ばね指は妊娠・出産期や更年期の女性にも多くみられることから、ホルモンバランスの影響もあるのではないかと推測されています。他にはリウマチによる関節変形や外傷、糖尿病などが原因で発症することもあります。

■ 病態

腱が腱鞘を通過する際に、何らかの原因によって引っかかりが生じているのが主な病態です。腱鞘が肥厚(ひこう、腫れたり、むくんだりして分厚くなること)していたり、腱が腫れてしまったりすることで通過障害が起こり、指がばねのような動きになってしまうのです。
また、腱鞘内には滑液(かつえき)と呼ばれる潤滑油のような液体が存在しており、この滑液が枯渇してしまうことも通過障害を引き起こす要因に挙げられます。

ばね指の検査

ばね指は、腱や腱鞘に生じる病態であるため、レントゲン検査では所見がみられません。ですが、他の手の病態との判別をするためにレントゲン検査を行う場合もあります。
ばね指は、主に触診と視診によってばね指は診断されます。どのような症状から判断するのか、具体的に解説していきます。

■ 触診

指の曲げ伸ばしをした際に患部を触れて、引っかかりが生じるかどうかを診ます。さらに痛みが生じている腱鞘を押してみて、圧痛があるのかを確認します。また、腫れ上がっていないか、熱を持っていないかといった所見を触診から判断します。

■ 視診

指を曲げ伸ばしした際に、引っかかりが生じる弾発症状がないかを視覚的に診ます。また親指に生じるドケルバン病では、親指を他の4本指で握り、手首を小指側に曲げて痛みが出るかを診る「フィンケルシュタインテスト」をおこないます。

ばね指の治療方法

ばね指の治療方法は主に「薬物療法」「リハビリテーション」「注射」「手術」が挙げられます。それぞれ具体的にどのような方法なのかについて解説していきます。

■ 薬物療法

主にロキソニンやボルタレンといった、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用のある非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が使用されます。
また湿布剤を患部に直接貼り、炎症を抑えていきます。

■ リハビリテーション

リハビリテーションでは、主に温熱療法と運動療法をおこないます。温熱療法は、ホットパックや超音波などによって患部に熱を加えて、血流を促進し、痛みを緩和させていく治療方法です。
運動療法では、硬く伸びにくくなった指や手首に付着する筋肉のストレッチや、腱鞘のストレッチ、指関節の動きを促すような体操などをおこないます。

■ ステロイド注射

強い痛みがあり、生活に支障をきたしている場合は、患部にステロイド注射をおこないます。ステロイド注射は、患部の炎症を抑えて痛みを即時的に緩和させる効果が期待でき、1〜2ヶ月は症状が和らぎますが、再発することもあります。また、ステロイド注射は腱鞘そのものを傷つけてしまうこともあるため、頻繁におこなうことはできません。

■ 手術

長期間症状が続いている、治療をしていても治らない場合には手術をおこないます。
一般的な手術は、腱鞘を切開して腱の通過を改善させる腱鞘切開術です。手術は局所麻酔で傷口も小さく、所要時間も15分程度で済むため日帰りでおこないます。

ばね指にならないための予防方法

ばね指は普段の生活による指の負担を軽減すること、こまめにケアをすることが予防に繋がります。具体的な方法について解説していきます。

■ 指を使いすぎない

ばね指は指の使い過ぎが主な原因です。仕事や家事でやむを得ない場合は仕方ないですが、スマートフォンを長時間操作する、細かい作業を繰り返すといった動作は控えるようにしましょう。

■ 手の使い方を意識する

指の負担は、手首の角度によって変わってきます。試しに手首を小指側に傾けてグーパーをしてみてください。指が窮屈に感じるのがわかるかと思います。
逆に手首を親指側に傾けてグーパーをしてみると、先程よりもスムーズに曲げ伸ばしできるのを感じないでしょうか。このように手首の角度によっても指の動きは変わるため、普段から小指側に手首を曲げて指を使用していると腱鞘炎やばね指のリスクが高まります。
そのため、普段の手の使い方を意識してみるのは予防に効果的です。

【手首が小指側に傾きやすい動作】
・スマートフォンやパソコンの操作
・手提げ荷物を持つ
・フライパンや鍋を持つ
・子どもを抱っこする

■ 筋肉のストレッチやマッサージをする

ばね指は指や手首の筋肉が硬くなることによって症状が悪化します。そのため、ストレッチやマッサージでこまめにケアをしてあげることが予防に効果的です。具体的な方法を紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

  • 指を曲げる筋肉のストレッチ 指を曲げる筋肉が硬くなると、腱と腱鞘の通過障害を起こしやすくなります。そのため、指を曲げる筋肉のストレッチをして、硬くなるのを予防しましょう。
    【方法】 ①伸ばしたい方の腕をまっすぐ前に伸ばします。肘もしっかりと伸ばしましょう。
    ②手首を手の甲側に反らし、指を全部伸ばします。
    ③反対の手で、手のひらと指をさらに反らすように押して筋肉をストレッチします。
    ④肘から手首、指にかけて伸びていることを感じながら20秒ストレッチしましょう。
  • 母指球のマッサージ 母指球(手の親指の付け根の膨らんだ部分)は腕や指の筋膜が連結する部分になります。母指球をほぐして、ばね指を予防してみましょう。
    【方法】 ①母指球を反対の指でつまみます。
    ②つまみながら左右に揺らして母指球をほぐしていきます。
    1〜2分程度マッサージを続けます。
    ※テーブルの角やテニスボールを母指球に押し当ててほぐしてもOKです。

ストレッチとマッサージは1日に2~3回を目安に毎日継続しておこないましょう。

腱鞘炎/ばね指に関するよくある質問

腱鞘炎・ばね指に関して、患者さまが気になる質問に対してお答えいたします。

Q腱鞘炎やばね指はどのくらいの期間で治りますか?

A

治る期間には個人差があります。なぜなら腱鞘炎やばね指は、その方によって起こる原因が異なるからです。一番多くみられる原因が指の使い過ぎのため、生活習慣や仕事の環境などを見直して指の負担を減らすことが早く治すためには大切です。<br>また治療方法は、薬物、リハビリテーション、注射、手術があり、それぞれ効果も違います。まずは医師の診断を受けて適切な治療を選択するようにしましょう。

Qばね指を放っておくとどうなりますか?

A

ばね指を放置してしまうと、指の関節が固まってしまい、関節が変形を起こしたり、他の指にも症状が及んだりしてしまいます。日常生活にも支障をきたして、物を握ったり、細かい作業ができなくなったりしてしまう可能性もあります。そのため、できるだけ早めに治療を始めることが重要です。

Qばね指はどういう症状が出ますか?

A

指が「カクン」と弾けて、ばねのような動きになります。これを弾発症状といいますが、多くの方が痛みをともない、日常生活に支障をきたします。<br>また曲がったまま伸ばせなくなったり、逆に伸びたまま曲がらなくなったりするキャッチング現象がみられることもあります。ばね指は人によって症状が出る指は異なりますが、日常的に負担のかかっている指に症状が現れやすいのが特徴です。

監修医師紹介

監修医師紹介

西新宿整形外科クリニック 沼倉 裕堅 院長 Hirokata Numakura

  • 【所属学会】
    日本整形外科学会
    日本再生医療学会
    日本四肢再建・創外固定学会