翼状肩甲骨(翼状肩甲)
症状
腕を挙げる時に肩甲骨の内側縁が浮き上がり、天使の羽根や折り畳んだ鳥の羽根のように見えるためこのように呼ばれます。
正常の肩は、腕を90度以上挙げる時には、上腕骨と肩甲骨の間の肩関節だけでなく、肩甲骨の内側で内側縁に起始する前鋸筋や肩甲骨棘から肩峰に停止する僧帽筋の働きで、肩甲骨が胸郭の外側を滑るように前方に移動して、かつ下端が更に上方に回転します。
前鋸筋が麻痺すると肩甲骨の内側縁が浮き上がり翼状肩甲骨となり、腕を前方へ挙上できなくなります。
原因と病態
前鋸筋の単独麻痺は、この筋を支配する長胸神経がテニスのサーブ、ゴルフのクラブスイングのようなスポーツ、産褥期の腕を挙上した側臥位での新生児との添い寝などにより伸張されて麻痺するのが主な原因となります。
スポーツではテニス、ゴルフの他にも体操の吊り輪、重量挙げ、アイスホッケー、バレエの連続した横とんぼ返りなどが原因として報告されています。産褥期の新生児との添え寝と同じような肢位になる、ほほ杖をついての側臥位で本を読むなどの動作も原因となります。
腕を下方に牽引して肩甲骨を胸郭に押し付けるようにすると、第2肋骨の外側縁で長胸神経が圧迫されることも証明されています。重いリュックを背負った後に生じるのは、これが原因の可能性があります。
頚部リンパ節の生検や郭清術後の副神経損傷による僧帽筋麻痺、三角筋拘縮による肩関節外転拘縮、棘下筋拘縮など肩関節外旋拘縮や、進行性筋ジストロフィーなども同様の症状が現れます。
診断
腕を前方に挙げる肩関節の屈曲動作が制限されている場合は、肩関節の着衣をとり診察します。腕を前方に挙上する動作で、肩甲骨の内側縁が浮き上がる原因はいくつかあるので鑑別しなければなりません。
副神経支配の僧帽筋の萎縮がないか、肩甲背神経支配の菱形筋の麻痺がないか観察します。前鋸筋麻痺では、壁に両手をあてて上体を前方に倒すと、麻痺している側の肩甲骨の内側縁が浮き上がってきます。
肩関節外転拘縮例では、肘を体につけようとすると外旋拘縮例では肘を体に付けて、手を前方に回すと肩甲骨が浮いてきます。
進行性筋ジストロフィーでは両側に見られます。
予防と治療
スポーツや特異な肢位による前鋸筋の麻痺と判断されたら、原因となっている動作や肢位を避けさせると、平均9ヶ月で回復します。腕の挙上制限などの障害が強い場合、肩甲骨固定装具を装着します。長胸神経の不全麻痺例など回復が予測される場合には有効です。
2年以上回復しない時には大胸筋の肩甲骨下角への移行術が行われます。他の原因によるものは、それぞれ原因に対する治療が必要です。