肩こりの原因と治療・対処法

肩こり

肩こりは国民病ともいわれ、多くの日本人が悩まされる身近な症状です。首から肩、背中にかけて生じるだるさや筋肉のはりが主症状で、年齢や性別を問わず幅広い方に生じるのが特徴です。
「肩こり」というのは医学的な診断名ではないため、首すじや肩、背中のこわばりやだるさが主症状であれば実際には「頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)」という病名がつけられることが多いです。特に現代人はパソコンやスマートフォンの使用頻度が高いことから、肩こりを発症しやすいといわれています。なかには慢性化してしまい、何年間も肩こりに悩まされている方も少なくありません。
こちらでは肩こりの症状や原因から、診断方法、治療方法などについて詳しく解説します。

■ 肩こりの症状

首の後ろから背中や肩にかけて、筋肉がこわばったような張りやだるさが生じるのが主な症状です。症状のある部位の筋肉を指で押すと、硬いゴムを押しているような抵抗感を感じます。時には不快な痛みや頭痛、吐き気などをともなう場合があり、症状の程度は人によってさまざまです。
初期の頃は、下を向く作業や長時間の同一姿勢などで症状があらわれますが、日が経つと軽快します。しかし、進行すると慢性化してしまい、数ヶ月以上にわたり症状が続く場合もあります。

■ 肩こりの原因

肩こり

肩こりは、首や肩を取り巻いている筋肉の緊張が高まり、疲労物質が蓄積したり、血行が悪くなったりすることが原因で生じます。筋肉は、伸び縮みをして血行を促進し、全身に酸素や栄養を運ぶポンプのような役割を果たしています。しかし、疲労や運動不足などにより筋肉のポンプ作用が滞ってしまうと、血行が悪くなるため、肩こりの症状を招いてしまうのです。
肩こりの症状を引き起こす要因として、不良姿勢、長時間のデスクワーク、腕や手の使い過ぎ、ストレス、眼精疲労、冷えなどが挙げられます。

■ 肩こりの診断方法

肩こりは、問診や視診、触診、レントゲン検査などで診断をします。特に触診では、首から肩にかけて走行する僧帽筋の筋緊張や圧痛を確認します。
肩こり症状だけでなく、手のしびれや脱力感、首や肩の可動域制限などがある場合は、頚椎や肩関節に別の疾患がともなっている可能性があります。また、眼疾患、耳鼻咽喉疾患、高血圧症などの随伴症状としての肩こりが生じることもあります。その場合は、必要に応じてMRIや血液検査、筋電図検査などをおこない、精査していきます。

■ 肩こりの予防方法と治療方法

肩こりの予防には、筋肉の緊張や硬さを改善すること、姿勢を正すストレッチを行うことが有効です。特に、肩こりの方は、「ストレートネック」や「猫背」といった不良姿勢が多い傾向にあります。
ストレートネックとは背骨に対して、頭が前に突き出てしまっている姿勢のことをいい、首周辺にある筋肉の緊張を高めやすく、肩こりの症状を助長してしまいます。
猫背は背中が丸まって、肩甲骨が外側に開いている姿勢で、肩甲骨周囲にある筋肉の緊張を高め、肩甲骨の動きを悪くしてしまうため、こちらも肩こりの原因になります。このような姿勢を改善して、肩こりを予防する具体的な方法について解説していきます。

首周りの運動

首の周囲にある筋肉のストレッチは、ストレートネックを予防し、肩こり解消の効果が期待できます。すぐに実践できる簡単な方法を3つ紹介していきます。

  • 首の後面の緊張を緩和するストレッチ ストレートネックの方は、首の後方にある後頭下筋群が硬くなりやすく、首の前後屈の動きを阻害しています。また、後頭下筋群は目の動きとも連動しているため、固くなると眼精疲労から来る肩こりの原因になる可能性もあります。
    そこで、後頭下筋群の緊張を和らげるストレッチをして、ストレートネックを予防し、肩こり改善を目指してみましょう。
    【方法】 ①椅子に座り、頭の後ろで手を組みます。
    ②背筋を伸ばしたまま、あごを引くように首を前に倒して軽く手で押します。
    ③首の後ろの筋肉がやんわりと伸びていると感じる角度まで曲げて20秒程度ストレッチします。
  • 首の側面の緊張を緩和するストレッチ 僧帽筋は首から肩甲骨にかけて側方についている筋肉で、肩こりのある方のほとんどが硬くなりやすい部位です。僧帽筋が硬くなると、首や肩甲骨の動きが悪くなり、肩こり症状を助長してしまいます。
    そこで、僧帽筋のストレッチをして、首の側方の緊張をやわらげて肩こりを予防しましょう。
    【方法】 ①椅子に座り、肩こりがある側の手を腰の後ろに回します。
    ②背筋を伸ばしたまま、首を横(肩こりがない側)に倒して、側頭部を軽く手で押します。
    ③首の側面の筋肉がやんわりと伸びていると感じる角度まで倒して20秒程度ストレッチ します。
  • 首の前面の緊張を緩和するストレッチ 首の前面にある胸鎖乳突筋、斜角筋は、ストレートネックの方や、下を向いて作業をしている方は特に硬くなりやすいのが特徴です。あまり自覚症状を感じない部位ですが、鎖骨に付着して肩甲骨の動きにも影響を及ぼしています。
    そこで胸鎖乳突筋、斜角筋の緊張を緩和するストレッチをして、首や鎖骨の動きの改善を目指してみましょう。
    【方法】 ① 椅子に座り、右手で右の鎖骨、左手で左の鎖骨を上から軽く抑えます。
    ② 口を閉じたまま、上を向くように首を後ろに倒していきます。
    ③ 首の前面の筋肉がやんわりと伸びていることを感じる角度まで倒して20秒程度ストレッチ します。

※首周りの運動は、いずれも1日1~2セット、できるだけ毎日継続しておこないましょう。

肩甲骨ストレッチ

肩こり予防には肩甲骨の柔軟性を高めることが重要です。特に、猫背の方は肩甲骨が外側に開いて固まっていることが多く、肩こりになりやすい傾向にあります。また長時間のデスクワークや下を向いて作業をしている方も肩甲骨の硬さを助長しやすいので、しっかりと動かして柔軟性を高めることが大切です。そこで座ったままでも簡単に行える肩甲骨のストレッチ方法を2つ紹介していきます。

  • 肩甲骨を内側に寄せるストレッチ 猫背の予防や姿勢の改善にも繋がり、肩こりを予防する効果が期待できる、肩甲骨を内側に寄せる(内転)方向のストレッチをやってみましょう。
    【方法】 ① 椅子に座り、大きく息を吸って両腕を外に開いて胸を張ります。
    ② さらに肩甲骨を内側に引き寄せ、息を吐くと同時に脱力します。
    ③ ①②を5〜10回繰り返します。
  • 肩甲骨を上下に回旋させるストレッチ 肩こりの予防には、僧帽筋をしっかりと動かすことが大切です。そこで普段あまり動かすことが少ない、肩甲骨を上下に回旋(上方回旋・下方回旋)させる方向のストレッチをやってみましょう。
    【方法】 ① 椅子に座り、背筋を伸ばして両手を上にバンザイするように上げます。この時、手のひらは正面を向けます。
    ② 上に挙げた手を真横から下ろしながら、肘を曲げて脇腹に付くようにして胸を張ります。
    ③ さらに肩甲骨を内側に寄せ、胸を張ります。
    ④ ①②③を5〜10回繰り返します。
マッサージ

肩こりには背骨や肩甲骨の動きに関わる、鎖骨の下の胸の部分や脇の後方部分にある筋肉へのマッサージが効果的です。肩甲骨や鎖骨に付着する筋肉をマッサージすることで、肩甲骨の動きが改善され、肩こりの予防に繋がります。

  • 鎖骨下のマッサージ方法 鎖骨の下に人差し指から小指の指先を軽く押し当て、円を描くようにマッサージします。
    のどぼとけ側から、腕の付け根にかけてゆっくりとほぐしていきます。
    右の鎖骨をほぐす場合は左手、左の鎖骨をほぐす場合は右手でおこなうとやりやすいでしょう。
  • 腋の後方部分のマッサージ方法 腋の後方部分から脇腹に沿って、反対側の人差し指から小指の指先を軽く押し当ててマッサージします。
    横にゆするように振動刺激を与えながら、上から下にかけてほぐしていきます。
    右の腋をほぐす場合は左手、左の腋をほぐす場合は右手でおこなうとやりやすいでしょう。

    ※マッサージは、1回につき2~3分程度、1日に数回行うようにしましょう。マッサージの圧が強すぎると逆に痛くしてしまうことがあるので、力の入れすぎに注意しましょう。
温熱療法

温熱療法とは、患部を温めることによって血行を促進し、筋肉の緊張を緩和させ、こりや痛みを和らげる治療方法です。他にも代謝の亢進、疲労回復、組織の回復促進といった効果も期待できます。主に、熱、電磁波、音波などの熱エネルギーを用いる、ホットパック、マイクロ波、超音波といった治療機器が用いられます。当院ではより深部まで熱が到達する超音波を使用しております。

薬物療法

肩こりの薬物療法では、主に飲み薬(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤)、湿布薬、塗り薬が使用されます。また、症状によってはトリガーポイント注射をする場合もあります。

当院では、これらの薬物療法に加えて、特別外来で肩こりボトックス注射を実施しております。ボトックスには筋肉の緊張や痛みを和らげる効果があり、こっている箇所に直接ピンポイントで注射をすることが可能です。施術時間は5分程度で、効果は3~4ヶ月持続します。(効果には個人差があります)

■ 肩こりに関するよくある質問

肩こりに関して、患者さまが気になる質問についてお答えいたします。

Q肩こりや痛みの原因は何ですか?

A

肩こりは、肩や首周辺にある筋肉の血流が悪くなったり、疲労が蓄積されたりしていることが原因に挙げられます。長時間のデスクワーク、不良姿勢、重たいバックを肩にかけている、腕を使いすぎているといった、普段の生活習慣の積み重ねが症状を引き起こしていることが多いです。

Q肩こり治療はどこに行けば良いですか?

A

整形外科で診察を受けて治療をすることをおすすめします。一口に肩こりといっても、頚椎や肩関節に問題があることもあり、重篤な疾患が潜んでいる可能性もあります。一度医師による診察、レントゲン検査などできちんと診断を受けてから、適切な治療方法を選択することが大切です。医師による診断を受けずに誤った治療をすると、改善しないどころか、悪化してしまう恐れがあるので注意しましょう

Q肩こりはどのくらいの期間で改善されますか?

A

肩こりが改善する期間は人によってさまざまです。なぜならば、普段の生活習慣や個人個人の姿勢の違い、体質によっても肩こりの症状は違うため、回復にも個人差が出てしまうのです。適切な治療を受けて、普段の生活習慣を改善して肩や首に負担をかけないように心がけることが早期改善に繋がります。

監修医師紹介

監修医師紹介

西新宿整形外科クリニック 沼倉 裕堅 院長 Hirokata Numakura

  • 【所属学会】
    日本整形外科学会
    日本再生医療学会
    日本四肢再建・創外固定学会