腰椎椎間板ヘルニア

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、男性の自覚症状の第1位は腰痛であり、女性も肩こりに次いで第2位と、多くの方が腰痛に悩んでいることがわかっています。腰痛の原因はさまざまであり、原因不明のものも多いのですが、その中で腰椎椎間板ヘルニアは診断法と治療法が確立されている腰痛の原因疾患のひとつです。今回は、腰椎椎間板ヘルニアの症状や原因、検査や診断方法、治療法などについて詳しく解説します。

腰椎椎間板ヘルニアとは

ヘルニアとは、臓器が本来あるべき場所から飛び出すことをいいますが、腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎の椎骨と椎骨の間にある椎間板が飛び出して神経を圧迫し、痛みやしびれなどの症状が起きる疾患です。
背骨は椎骨(ついこつ)というブロック状の骨が、首の方から頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個の計24個積み重なり、椎間板(ついかんばん)は椎骨と椎骨の間のクッションの役割を果たしています。腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎の上から4番目と5番目の間と、5番目と仙骨の間に発症しやすいことがわかっています。女性より男性に多く、20~40代に多く発症すると言われています。

腰椎椎間板ヘルニアの症状

腰椎椎間板ヘルニア1
腰椎椎間板ヘルニアは、腰や足の激しい痛みをともなって突然発症します。最初は、いわゆるぎっくり腰と呼ばれる症状です。ぎっくり腰は急性腰痛症と言われ、腰の痛みは通常は1~2週間で治ります。
しかし、治らない場合、腰椎椎間板ヘルニアでは、椎間板から飛び出たヘルニアが神経を圧迫することで坐骨神経痛の症状があらわれる場合があります。おしりから太ももの後ろ、ふくらはぎ、すねの外側へと拡散するような激しい痛みです。なお、痛みの部位は、足の片側に生じることが多いですが、両足の場合もあります 。

腰椎椎間板ヘルニアの痛みのピークは2~3週間程度で 、ヘルニアが自然に引っ込むにともない坐骨神経痛の症状も1~3ヵ月程度で自然に治ることもあります。ただしヘルニアが進行すると、強い痛みやしびれは長期化し、足の感覚が鈍くなる知覚障害や、足があげづらくなる筋力の低下、排尿障害などの症状もみられるようになることがあります。

腰椎椎間板ヘルニアになる原因

腰椎椎間板ヘルニアは、いくつかの原因が関わって発症しますが、患者さまの環境と椎間板の変性の二つに分けて考えていきます。

■ 腰椎椎間板ヘルニアになる原因

腰椎椎間板ヘルニアは、いくつかの原因が関わって発症しますが、患者さまの環境と椎間板の変性の二つに分けて考えていきます。
・患者さまの環境
椎間板の変性は加齢によるところが大きく、20代から次第に弾性が減り損傷しやすくなります。さらに、背骨に負担がかかる環境的要因が発症のリスクになりますが、座っている時間が長い、前かがみや中腰の姿勢を続ける、重い物を扱うことなどがあげられます。また、喫煙者の方が男女ともに腰椎椎間板ヘルニアになりやすいと言われています。
・椎間板の変性
椎間板は、ゼラチン状の髄核(ずいかく)の周りをコラーゲン線維の線維輪(せんいりん)が囲んだ2重構造になっています。椎間板には弾力性があるため椎骨と椎骨の間のクッションとなり、背骨を支えたり前後左右への動きを可能にしたりするものです。

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板が変性して弾力性がなくなったり、線維輪がもろくなって中の髄核が飛び出しやすくなったりすることで発症します。
腰椎椎間板ヘルニア2

腰椎椎間板ヘルニアの検査と診断方法

腰椎椎間板ヘルニアは、医師による診察と検査で診断できます。どのような診察や検査をするのでしょうか。
・医師による問診・診察
問診は、症状についての質問です。痛みの程度や部位、しびれの有無、しびれの程度や部位、痛みやしびれが強くなる状況などの質問です。

診察では、主に次の3つの試験をおこないます。
下肢伸展挙上試験(SLR試験:Straight LegRaising test)SLR陽性:あおむけで膝を伸ばした状態で、足を上に持ち上げる時、太ももの裏側やふくらはぎやすねの外側に痛みがある。
腰椎の第4と第5の間、第5腰椎と仙骨の間にヘルニアがある時に痛みが再現される。
大腿神経伸展試験(FNS試験:Femoral Nerve Stretching test)FNS陽性:うつぶせでひざを曲げ、ひざ下を上に引っ張りあげる時、太ももの付け根や前側、すねの内側に痛みがある。
腰椎の第1と第2の間、第2と第3の間、第3と第4の間にヘルニアがある場合に痛みが再現される。
神経学的診察足の筋力、痛みや温度に対する感覚、腱反射をみることで、どの部位の神経が障害されているか推測できる。
・検査
検査では、主に次の3つの画像検査をおこないます。
レントゲン検査椎間板は軟骨のため、レントゲン検査では映りません。腰痛の原因として腰椎椎間板ヘルニア以外のがんの転移や感染症、骨折などを除外することができる。
MRI検査最も優れた検査法で確実に診断が可能。変性した椎間板が黒くなるため、ヘルニアの程度や部位を見つけることができる。
その他CTスキャン、脊髄造影、椎間板、神経根造影、電気を使用する神経検査などが必要に応じておこなわれる。
画像検査で腰椎椎間板ヘルニアが認められても、症状がなく治療の必要のない場合もあるため、医師による診察を含めて診断されます。

腰椎椎間板ヘルニアの治療方法

腰椎椎間板ヘルニアの治療方法には、大きく分けて保存的治療と手術的治療があります。ここでは、複数の治療方法の中でも保存療法の部分について詳しくご説明します。また、腰椎椎間板ヘルニアとストレッチの関係性についてもご紹介します。

■ 腰椎椎間板ヘルニアの保存的治療

腰椎椎間板ヘルニアは、自然にヘルニアが吸収される可能性があるため、吸収されるまでの3ヵ月間程度は、基本的に保存的治療をおこないます。保存的治療は、ヘルニアを小さくするのではなく、ヘルニアが吸収されるまでの間の症状を和らげる対症療法です。

強い痛みがある間は安静にし、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの薬物療法は痛みを軽くする効果があります。腰椎椎間板ヘルニアは身体をまっすぐに立てた方が痛みが少ないため、腰椎コルセットで支えると楽になります。その他、個人差はありますが腰椎の牽引も効果があるようです。
また、痛みが強い場合には、局所麻酔薬を神経の付近に注入するブロック療法(トリガーポイントブロック、硬膜外ブロック、神経根ブロック)をおこなうこともあります。

■ ストレッチの効果について

ストレッチは、血行をよくして、筋肉を柔らかくして筋肉の緊張が低下するため、腰の周辺の状態を改善する効果が期待できます。
背中の脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)や、お尻の大臀筋(だいでんきん)のストレッチがおすすめです。また、腹筋や背筋を鍛える運動は体幹の安定性が増し、腰痛の改善につながると言われています。

■ 椎間板ヘルニアを早く治す方法はあるか

腰椎椎間板ヘルニアを早く治す方法は、残念ながらありません。保存的治療では、積極的にヘルニアを小さくする方法はないからです。

ただ、できるだけ早く普段の生活を送るためには、安静の期間を短くして少しずつ日常生活に戻るようにしましょう。また、腰に負担がかからないような生活を心掛け、なるべく痛みやしびれが出ないようにすることが大切です。日頃の姿勢や座っている時間の長さなど生活を見直してみましょう。また、たばこを吸っている方は、禁煙も考えましょう。

■ 腰椎椎間板ヘルニアの予防方法

腰椎椎間板ヘルニアを発症する原因として、加齢による椎間板の変性が関係していますが、環境的な要因を避けることで予防することができます。予防方法を3つの観点から紹介します。
  • 姿勢に気を付けましょう 正しい姿勢を保つことは、腰に負担をかけないために大切です。椅子の角度は直角より少し倒した95度が良いと言われています。また、座っている時間を短くすることを心掛けましょう。デスクワークの方は、時間を区切って立ち上がり、ストレッチをすることをおすすめします。
  • 適度な運動をしましょう 適度な運動は、次の3つの効果で腰痛の予防が期待できます。
    ①ストレッチは、血流をよくして筋肉をしなやかにして、関節の可動域をひろげます。
    ②筋トレは、脊椎や関節の安定性が増します。
    ③有酸素運動は、心拍の機能を向上させ、肥満予防やストレス解消の効果があります。
  • 規則正しい生活習慣を心掛けましょう 腰椎椎間板ヘルニアを予防するためには、十分な睡眠時間をとるようにし、規則正しい生活習慣を心掛けるようにしましょう。不規則な生活や疲労の蓄積は、全身の筋肉を緊張させ、血流が悪くなることで、腰痛発症のリスクが高まります。自分なりのストレス解消法で心身ともに疲れをためないようにしましょう。

腰椎椎間板ヘルニアに関するよくある質問

腰椎椎間板ヘルニアに関して、患者さまが気になる質問についてお答えいたします。
Q腰椎椎間板ヘルニアと診断された場合にやってはいけないことはありますか?

A

腰椎椎間板ヘルニアと診断された場合、腰椎に負担のかかることは避けるようにしましょう。例えば、重いものを持ち上げる、前かがみや中腰の姿勢、長時間同じ姿勢で座っているなどです。また、腰に負担のかかる運動は避けてください。逆に運動不足も筋力の低下につながり、姿勢の保持ができなかったり、体重が増えたりする原因となり、腰に負担がかかるため、適度な運動は必要です。

Q腰椎椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法はありますか?

A

腰椎椎間板ヘルニアの保存的治療は、痛みを和らげることを目的とした治療方法です。薬物療法、腰椎コルセット、腰椎の牽引、ブロック療法などで痛みを和らげることが期待できます。

監修医師紹介

監修医師紹介

西新宿整形外科クリニック 沼倉 裕堅 院長 Hirokata Numakura

  • 【所属学会】
    日本整形外科学会
    日本再生医療学会
    日本四肢再建・創外固定学会