野球肘の原因から予防方法まで

野球肘とは

野球肘
野球肘とは、その名のとおり、野球の動作が原因となって肘に起こる障害です。野球によって生じた肘の痛みや障害を総称して野球肘といいます。正式な診断名としては「上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)」や「肘内側側副靱帯損傷(ひじないそくそくふくじんたいそんしょう)」、「断離性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)」などの診断名がつけられます。骨の成長が未発達な成長期に、発症しやすいことが特徴です。

野球肘の原因と痛みが生じるメカニズム

野球肘は、野球の動作によって肘に過剰に負担がかかることが原因です。特にボールを投げる投球動作で肘に負担がかかるため、野球のポジションでは投球動作の多いピッチャーやキャッチャーに発症しやすいといわれています。投球動作で野球肘を発症するメカニズムは、投球時に肘が曲げ伸ばしの際に負荷がかかり、肘関節周辺の筋肉や軟骨、靭帯が損傷したり、炎症したりするためです。

野球肘の種類

野球肘は、痛みの部位や障害の状態によって、いくつかの種類にわかれます。種類によって、発症の頻度や重症度などが異なるため、種類を知っておくことも大切です。野球肘の種類は、発症する部位で大きく3つに分類されます。

肘の内側に発生するもの

肘の内側に発生する野球肘には、「上腕骨内側上顆炎」や「肘内側側副靱帯損傷」、「上腕骨内側上顆剥離骨折(じょうわんこつないそくじょうかはくりこっせつ)」などがあります。

■ 上腕骨内側上顆炎

上腕骨内側上顆といわれる肘の内側にある骨が出っ張った部分の軟骨が、損傷することで炎症し、痛みを引き起こす障害です。成長期の子どもに発症しやすいことから、別名、リトルリーグ肘ともいわれます。

なぜ成長期の子どもに発症しやすいのかというと、成長期の子どもは骨が十分に発達していないからです。そのため、成長期の子どもが繰り返し投球動作をおこなうことにより、内側上顆の軟骨が損傷して発症します。上腕骨内側上顆炎を発症したばかりの頃は、痛みが生じても長時間痛みは持続しません。しかし、症状が重度になってくると痛みがなかなか治まらなくなってきます。

■ 肘内側側副靱帯損傷

肘関節の内側にある靭帯が損傷することで発症する障害です。内側側副靱帯は、骨と骨をまたぐようにして位置し、肘の安定性や過剰な動きを防いでいます。投球動作は肘に大きな負担がかかり、内側側副靱帯には引っ張られる力がかかります。小さい負担や少ない回数であれば、内側側副靱帯が損傷することはほとんどありません。しかし、一度に強い力や繰り返し負担がかかると、損傷したり、断裂したりして発症します。

■ 上腕骨内側上顆剥離骨折

上腕骨内側上顆の軟骨や骨がはがれるように骨折して発症する障害です。内側上顆には筋肉が付着しており、投球動作によって引っ張られる力が加わります。大きな力や繰り返し力が加わることにより、内側上顆が引っ張られることで、軟骨や骨が剥がれるように骨折してしまうのです。

野球肘の種類の中でも、肘の内側に発生するものが最も頻度が高いと報告されています。

肘の外側に発生するもの

肘の外側に発生する野球肘には、「上腕骨小頭断離性骨軟骨炎(じょうわんこつしょうとう りだんせいこつなんこつえん)」という障害があります。上腕骨小頭断離性骨軟骨炎は、野球肘の種類の中で最も重傷で予後が悪い障害です。発症初期は目立った症状が見られないことも多いにもかかわらず、発見が遅れると選手生命を奪われてしまう可能性があります。そのため、肘の外側に発生する野球肘には注意が必要です。ほかにも、肘の外側に発生する野球肘には、肘関節を覆っている関節包のヒダ状の部分が肘関節に挟まれて痛みを生じされる「滑膜(かつまく)ヒダ障害」といった障害があります。

そのほかの部位に発生するもの

そのほかの部位に発生する野球肘には、肘の後方で発生する「肘頭疲労骨折(ちゅうとうひろうこっせつ)」や「肘頭骨端線閉鎖不全(ちゅうとうこったんせんへいさふぜん)」、「骨棘形成(こつきょくけいせい)」などの障害があります。肘の後方で発生する野球肘は、投球動作で肘が伸びた時に骨と骨が衝突することが原因です。

発症しやすい年齢

野球肘が発症しやすい年齢は、骨の成長が未発達な小中学生くらいの成長期の子どもです。しかし、野球肘は肘に過剰に負担がかかることで発症するため、成長期の子どもだけではなく、高校生や大学生、社会人の方でも発症します。ただし、年代によって発症しやすい部位が異なることが特徴です。成長期の小中学生くらいでは、肘の内側に発生する野球肘が多いですが、大学生や社会人になると肘の後方で発生する割合が増加していきます。

診断と治療方法

野球をはじめとした投球動作をともなうスポーツをしている方で、肘に痛みや動きの悪さ、違和感などがあれば、野球肘が疑われます。野球肘を疑う症状があれば、受診を検討してみてください。診断はレントゲンやMRIなどの情報をもとに診断し、症状に合わせた治療をおこないます。

診断

野球肘の診断は、まず痛みや違和感、スポーツ歴などの問診をおこないます。問診から野球肘の疑いがあると判断された場合には、肘のレントゲン検査やMRI検査をおこないます。また、レントゲン検査やMRI検査以外にも、超音波を使用したエコー検査で簡便に診断することも可能です。

治療方法

野球肘の治療方法は、症状によって異なりますが、重要なポイントは改善するまでは投球動作を禁止または制限することです。原因となっている投球動作をやめなければ、野球肘はなかなか改善しません。安静にする期間は、症状によって数ヶ月程度から1年以上になる場合もあります。症状が改善してきたら、投球フォームの改善やストレッチ、筋力増強訓練などのリハビリをおこなって再発防止につとめます。野球肘による痛みが強い場合には、アイシングや内服薬、ステロイド注射などで痛みを抑えることも可能です。ただし、野球肘が重度である場合は、安静にしているだけでは改善しない場合もあります。

重度の場合であれば、手術による治療が検討されます。しかし手術は身体への負担も大きいため、手術による治療の前にPRP療法を検討してみてください。PRP療法は、自身の細胞が持つ修復機能を利用した再生療法で、手術不要で入院することなく、痛みの改善を図ることができます。野球肘を治したいけれど、手術は避けたいと考える方にPRP療法は有効な治療方法です。

安静時の注意点

野球肘の治療では、安静にすることが重要ですが、安静時にも気をつけるべき注意点があります。注意点を理解しないと、自分では安静にしているつもりであっても、肘に負担がかかってしまっていることも考えられるでしょう。安静時は注意点をよく理解して、肘へ負担をかけないようにすることが大切です。

投球以外の動作は可能?

野球肘を発症しても、痛みが出ない範囲であれば、投球動作以外の動作は可能です。肘を安静にすることは大切ですが、運動を一切やめてしまうと体力や筋力が低下していき、選手復帰が遅れてしまう可能性があります。肘は安静にしつつ、痛みが出ない範囲でランニングや下半身・体幹の筋力トレーニングなどをおこなうとよいでしょう。

安静にしておく期間の目安

野球肘の改善のために安静にしておく期間は、障害を受けた部位や重症度によって異なります。野球肘の中でも頻度の高い上腕骨内側上顆炎であれば、数週間程度が安静期間の目安です。しかし、野球肘の中でも重症度の高い上腕骨小頭断離性骨軟骨炎では、安静期間は少なくとも数ヵ月、状態が悪い場合には1年近く安静にしなければならないこともあります。

日常生活で気をつけるべき動作

日常生活では、重たい物を持ち上げたり、引っ張ったりする動作に気をつけましょう。重たい物を持ち上げたり、引っ張ったりする動作は肘に負担がかかります。わざわざ投球動作を禁止・制限しているのに、日常生活で肘に負担がかかれば、改善に時間がかかってしまうかもしれません。日常生活においても、肘に負担がかからないように気をつけましょう。

野球肘を予防するには

野球肘は発症してしまうと、安静にしたり、手術をしたりしなければならない可能性があります。そのため、野球肘にならないように予防することが大切です。特にピッチャーは投球動作が多く、野球肘になるリスクが高いため、ここではピッチャーとして気をつけるべきポイントを紹介します。

全身の柔軟運動

1つ目の予防方法は、全身の柔軟運動です。投球動作をはじめ、あらゆる運動の動作は、全身の動きが連動しています。どこか身体の一部の柔軟性が乏しいと、ほかの部位に過剰に負担がかかってしまうのです。たとえば、体幹の柔軟性が乏しく、肩や肘を無理矢理動かして速いボールを投げようとすると、肩や肘に過剰な負荷がかかるでしょう。身体の一部に過剰な負担がかかるのを避けるために、全身の柔軟運動をおこなうことが大切です。

投球練習や試合中・試合後のアイシング

2つ目の予防方法は、投球練習や試合中・試合後のアイシングです。野球肘は、肘に炎症を起こしている場合があります。アイシングは炎症部分を冷やすことにより、炎症を抑えて痛みを緩和する効果が期待できるのです。ただし、慢性的に痛みがある場合に、毎回アイシングで痛みを緩和していると、気付かぬうちに野球肘の症状が進行してしまう可能性があります。痛みや違和感が続くようであれば、早い段階で病院を受診しましょう。

練習時間や球数制限のルールづくりで負担を減らす

3つ目の予防方法は、練習時間や球数制限のルールづくりにより、身体への過剰な負担を減らす方法です。野球肘は、練習や投球動作のやり過ぎによる過剰な負担によって、発症するリスクが高まります。そのため、練習時間や球数制限などのルールを定めて、身体への過剰な負担を減らすことが野球肘の予防につながるわけです。ルールづくりには、日本臨床スポーツ医学会から提言されている「青少年の野球障害に対する提言」を参考にするとよいでしょう。「青少年の野球障害に対する提言」によると、練習時間については次のように提言されています。
  • 小学生では、週3日以内、1日2時間以内が望ましい
  • 中学生、高校生では、週1日以上の休養日が必要で、ここの選手の体力と技術に応じた練習量と内容が望ましい
また、投球数についても、次のように明確な数字が報告されています。
  • 小学生では、1日50球以内、週200球以内
  • 中学生では、1日70球以内、週350球以内
  • 高校生では、1日100球以内、週500球以内が望ましい
  • 1日2試合の登板は禁止すべき
さらに、野球肘はピッチャーとキャッチャーに発症しやすいことから、各チームにピッチャーとキャッチャーをそれぞれ2名以上育成しておくことを推奨しています。

以上のような予防方法を普段から心がけ、野球肘の発症を予防しましょう。もし、野球肘を疑う症状がある場合には、症状が進行してしまう前になるべく早く病院を受診してください。

監修医師紹介

監修医師紹介

西新宿整形外科クリニック 川原 昭久 院長 Akihisa Kawahara

  • 【所属学会】
    日本整形外科学会
  • 【資格】
    日本専門医機講認定 整形外科専門医
  • 【学会発表実績(筆頭演者として)】
    神奈川整形災害外科研究会