再生医療の実際<ADRC(脂肪組織由来再生幹細胞)療法>
脂肪のパワーを利用して、変形性膝関節症を治療

組織の再生を促し、痛みを和らげる効果を期待

おなかに脂肪がたまって困っているという人は多いと思いますが、実はこの脂肪にはこれまであまり知られていなかったパワーがあり、最近、病気の治療にも応用され始めています。おなかの脂肪を使った治療には、いくつかの方法がありますが、ADRCによる治療もその1つです。

ADRCはAdipose Derived Regenerative Cellsの略で、日本語にすると脂肪組織由来再生幹細胞となります。英語にしても日本語にしても、説明がないとなんのことかわかりませんね。

ここでいう脂肪とは、「おなかについて困っている」というときの皮下脂肪です。その脂肪組織には、幹細胞と呼ばれる細胞がたくさん含まれています。幹細胞は自分と同じ細胞をつくり出す「自己複製能」と、さまざまな細胞に分かれていく「分化能」の2つの能力をもった細胞です。

自分自身のおなかから採取した脂肪組織を遠心分離装置にかけて不純物を取り除き、脂肪細胞だけを取り出します。そこで得られた脂肪細胞に特別な酵素を加え、再び遠心分離装置にかけることで、幹細胞を抽出することができます。これがADRCと呼ばれるものです。これを患部に注入することで、損傷・変性した患部の組織の再生を促し、痛みを和らげ、本来の機能を取り戻そうというわけです。

さまざまな領域で治療が始まっている

私たちの身体を構成している多くの細胞は、古いものと新しいものが絶えず入れ替わっていく仕組みになっています。新しい細胞を生み出すところで活躍しているのが幹細胞です。

脂肪組織内にある幹細胞(ADRC)は、骨髄に含まれる幹細胞に比べて多量にあるとされています1)。ADRCを用いた治療は、科学的な実験や動物での実験から効果が期待されている2)ことや、自分自身の細胞を使うため、重い副作用の心配はなく、安全性が高いと考えられることなど、多くのメリットがあるため3)、自由診療となりますが、さまざまな領域で治療に用いられています(表1)。

整形外科領域では、ADRCは軟骨の摩耗と修復のバランスを改善し、その保護と修復を促進すると考えられることから、変形性膝関節症の治療に使われています。また、肉離れ、靱帯損傷、腱損傷、半月板損傷などのスポーツ障害、治りにくい骨折などの治療に使われることもあります。そのほか、閉塞性動脈硬化症やバージャー病など下肢の血流に問題のある病気や、乳房再建、術後尿失禁など、幅広い領域でADRCを用いた治療が試みられています。

1)岩畔英樹, 杏林医会誌. 2012; 43(3): 43-8.
2)Eguchi M, et al. Life Sci. 2014; 118(2): 306-12.
3)柴田玲, Therapeutic Research. 2016; 37(4): 323-6.