変形性膝関節症の主な症状と
治療方法について

中高年になると、膝を曲げ伸ばしした際に膝に違和感を抱いたり、痛みを感じたりすることがあり、「膝の痛みの悩み」で受診する方が増えます。このような加齢にともなう膝の痛みの多くは、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)という病気によるものです。変形性膝関節症は一体どのような病気なのか、変形性膝関節症の症状や原因、検査方法や治療方法などについて解説します。

変形性膝関節症とは

変形性膝関節症とは、加齢や過度な負荷によって膝関節にある軟骨がすり減って、曲げ伸ばし・座るなどの動作をしたときに膝に違和感を覚えたり、痛みを感じたりする進行性の病気です。主に中高年に多い病気といわれています。

軟骨がすり減ると関節のクッションがなくなり、骨同士で摩擦が生じてしまいます。その結果、骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨のトゲが生まれたり、骨が変形したりしてしまうのです。

膝関節症には「一次性変形性膝関節症」と「二次性変形性膝関節症」の2種類があります。一次性は、加齢にともなう関節の負担が原因の場合をいいます。二次性は、先天的な異常や骨折や靭帯・半月板の損傷などによる外傷が原因で生じる場合です。多くのケースは加齢にともなう関節の負担による「一次性」であることが多いといわれています。

■ 関節リウマチとの違いとは

似たような関節の病気として「関節リウマチ」という病気が存在します。関節リウマチは、炎症による腫れや、関節の変形などが生じる病気です。免疫機能に異常をきたし、自らの組織を攻撃してしまうことで生じるもので、メカニズムが変形性膝関節症と大きく異なります。膝だけでなく、症状は全身に及ぶため、身体の倦怠感や微熱、手の指や手首の関節変形などの症状がみられます。
変形性膝関節症は、高齢になるほど罹患率が高くなりますが、関節リウマチは年齢に関わらず発症するリスクがあることも大きな違いです。

関節リウマチの詳細はこちら>

■ 変形性膝関節症のセルフチェック

変形性膝関節症を発症しているかどうか、簡易的なセルフチェックが可能です。以下の項目で当てはまるものが多いほど、変形性膝関節症である可能性が高くなります。

1. 膝が完全に伸び切らない
2. 正座がしづらい、またはできない
3. 直立の姿勢をとると、両膝の間にこぶし程度の隙間がある
4. 屈んだり、立ち上がるときに膝が痛む
5. 階段の上り下りが辛い
6. 膝が腫れている感じがする
7. 膝のおさらが浮いている感じがする
8. 左右の膝の形が異なる

変形性膝関節症の症状
(初期症状から末期症状まで)

変形性膝関節症は進行性の病気のため、進行の程度に応じて「初期」「中期」「末期」の3段階に分けられます。症状が進行する前に、初期の段階で早期に治療することが大切です。
  • 正常な膝関節
    正常な膝関節
  • 初期から中期
    初期から中期
  • 進行期
    進行期
それぞれの段階別に現れる、症状の特徴を紹介します。

■ 初期

発症初期では、平地で歩行するときは違和感がなくても、階段を昇るときに痛みを感じる、正座をするなど、何か特定の動作をしたときに膝が痛くてつらい、などの症状を自覚するようになります。さらに膝に水がたまって腫れる、重くてだるいなどの症状も現れることがあります。

初期段階では、安静を保つことで症状はおさまるケースが多いですが、そのまま放置すると症状は進行していきます。

■ 中期

さらに変形性膝関節症が進むと、慢性的な炎症による強い痛みを常に感じたり、次第にO脚が進み、平地でも痛みのために歩きづらいなどの症状が出ます。

炎症が進行するため、膝が熱を帯びたり、腫れが生じたりすることも特徴です。クッションの役割を果たす軟骨がすり減ることで、歩くときや関節を曲げるときは、軋むような音がする場合もあります。

■ 末期

運動や旅行など、特別なことではなく、日常生活に支障をきたすようになると、かなり症状が進行しているといえます。末期症状では、安静にしていても膝に痛みを感じるようになります。
普段どおりの歩行やしゃがむ動作が困難になり、重症化して軟骨がほぼない状態になると、骨と骨が直接当たってすり減り、激しい痛みをともないます。

変形性膝関節症の原因

変形性膝関節症
変形性膝関節症は、膝関節で向かい合っている大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の連結部分の表面を覆い、衝撃をやわらげるクッションとしての働きを持つ軟骨がすり減ることが原因で起こります。
軟骨がすり減る主な原因は「加齢」です。年齢を重ねると、軟骨の水分が減少して弾力が低下し、関節のクッション性が損なわれてしまうのです。

筋肉の衰えも変形性膝関節症の原因になります。筋肉が衰えると、膝関節を筋肉で支えることができず、関節への負担が大きくなり、軟膏がすり減りやすくなります。また、過度な運動や労働、肥満などによる骨への過度な負担も軟骨を減少させます。そのほか、O脚やX脚などの脚の変形がある方は、膝への荷重バランスが偏ることで変形性膝関節症を発症しやすいといわれています。比較的若い年代でも、激しいスポーツや転倒による膝の損傷がきっかけで、変形性膝関節症を発症することもあります。

変形膝関節症を放置すると

変形膝関節症は、進行型の病気であるため放置すると症状が悪化してしまいます。膝の痛みで動くのが億劫になり、運動量が減ることになります。これが筋力の低下と体重の増加を招き、さらに膝の痛みが悪化するという悪循環に陥ってしまうこともあるのです。

一度すり減ってしまった軟骨・関節は、自己治療で治ることはありません。初期や中期の症状が見られる場合、速やかに専門の医院に相談しましょう。

変形性膝関節症の検査と診断方法

まずは問診で「階段を降りるときに膝が痛むか?」「洋式トイレからの立ち上がりはどのぐらい困難か?」など、膝の違和感や痛みの頻度に関する質問に答えてもらい、日常生活での様子をお聞きします。
その後、レントゲンやMRI検査をおこない、関節の形状や関節軟骨の摩耗程度をチェックします。また、必要に応じて血液・尿検査にて、変形性膝関節症にともなう炎症や痛みの特徴を調べることもあります。

変形性膝関節症の治療方法

変形性膝関節症の治療方法は「保存療法」と「手術」の主に2つがあります。保存療法は、運動療法や薬物療法などで痛みなどの症状をやわらげる治療です。手術療法は、外科的な手術によって症状を改善する治療のことをいいます。

最近では、保存療法と手術療法の間に位置する新しい治療法として、「再生医療」という選択肢も登場しています。治療にあたっては、各治療法にリハビリテーションやマッサージなどを併用することで、運動機能回復の相乗効果が期待できます。

膝関節の再生医療(PRP療法)について、詳しくはこちらをご覧ください。

■ 運動療法や薬物療法

症状が比較的軽く、関節の変形がない初期の段階では、運動療法や薬物療法で治療します。
運動療法とは、運動訓練によって症状の改善を図る方法です。具体的には、自重などで無理なく膝を支える筋肉を鍛えたり、膝の動きをよく伸ばしたり、ウォーキングなど適度な全身運動などがあります。運動療法をおこなうことで、痛みや緊張で硬くなった筋肉や関節の動きを良くしたり、血行を促進したりといった効果が期待できます。

薬物療法は、外用薬・内服薬・注射薬などによって炎症をとったり、痛みをコントロールする治療法です。膝関節を保護して動きを滑らかにするために、膝関節内に潤滑剤となるヒアルロン酸を直接注射する治療法もあります。

■ 再生医療

再生医療とは、自身の血液から細胞(自家多血小板血漿:PRP)を抽出し、膝関節内に注入することによって人間が本来持っている自然治癒力を高める治療法のことです。保存療法と手術療法の間に位置する新しい治療法として近年注目されています。手術のように切る必要がなく、入院も不要のため、さまざまな事情で手術は避けたいという方に実施します。

なお当院は、第二種再生医療等提供計画取得済みの医療機関として、再生医療とリハビリテーションを組み合わせることで、再生医療の効果を最大限に引き出すことを目指します。

■ 手術

保存療法や再生療法では症状が改善せず、日常生活に支障をきたす場合は手術を実施します。手術には、人工膝関節を使わない方法として、関節内の劣化した組織を取り除く「関節鏡手術」や骨を切って膝の変形を矯正する「高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)」があります。また、人工関節を使う方法として、傷んだ膝関節の表面を薄く削って人工の関節に置き換える「人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ)」や「人工膝関節全置換術」などがあります。現在は、人工膝関節を使う方法が最もよくおこなわれる傾向にあります。

人工膝関節全置換術は、名前のとおり、傷んだ膝関節を丸ごと人工膝関節に置き換える手術で、術後は膝の痛みがなくなり、日常生活が送れるようになります。ただし、人工膝関節には20~25年の耐用年数があり、これを過ぎると人工関節の入れ替えが必要になる場合があります。また、手術の場合は入院や術後のリハビリが必要ですので、患者さまの年齢や症状の程度を考慮して手術に踏み切るかどうか、医師と話し合って決めることが大切です。

■ リハビリ

変形性膝関節症による痛みや骨の変形を進行させないことを目的に、理学療法士によるリハビリをおこないます。患者さまの状態に合わせ、超音波治療器による治療を実施して硬くなった筋肉をほぐしたり、あるいは膝関節への負担をやわらげるための運動訓練や、膝関節に負担をかけない日常動作などの訓練をおこないます。薬物療法、再生療法、手術などの治療と併用することも多く、相乗効果が期待できます。

■ マッサージの効果について

変形性膝関節症にともなう痛みや膝関節の動かしづらさに対しては、理学療法士によるマッサージがその改善に役立つ場合があります。特に、変形性膝関節症によって、硬くなった筋肉を理学療法士が手指を用いて圧迫、摩擦などの刺激を加える徒手療法(としゅりょうほう)は、痛みを軽減し、膝関節の可動域を改善するという報告があります。

■ 痛みを軽減するための膝サポーターについて

変形性膝関節症による膝の痛みの軽減には、膝サポーターが役立つことがあります。膝サポーターは、膝関節を支えて固定することで、膝のぐらつきを抑え、関節への負担や関節の痛みを軽減したり、歩行や動きを楽にしたりする働きがあります。また、サポーターを付けることで膝を保温し、血行を良くする効果も期待できます。さらに、サポーターを巻くことによって触圧覚(身体に何かが触れたり圧迫されている感覚)が刺激され、それによって痛覚の反応を鈍らせ、膝の痛みを脳に伝わりにくくする効果が得られることが分かっています。ただし、サイズや形状の合わないサポーターを無理に使用すると、逆効果になることもあるため、使用に際しては医師に相談することが大切です。

変形性膝関節症の予防方法

変形性膝関節症を予防するには、次の4つを意識して生活することが大切です。

1. 膝への過度な負担を減らす
2. 適度な運動で筋肉を鍛える
3. 膝を冷やさずに温めて血行をよくする
4. 日常的にストレッチをおこなう

それぞれ詳しくご紹介します。

■ 膝への過度な負担を減らす

変形性膝関節症は、膝への過度な負担も1つの原因です。膝に過度な負担を与えないために、”重い荷物を持つ、正座をする、和式トイレを使用する”などの膝に負担のかかる動作を避けて、ダメージを軽減することも大切です。

また普段の立ったり歩いたりする動作でも、意識的に正しい姿勢を保つことで膝にかかる負担を分散させられます。特にO脚やX脚の方は、インソールを使って膝関節の角度を補正することも有効です。

■ 適度な運動で筋肉を鍛える

全く運動しないと、膝の炎症と痛みが悪化するだけでなく、膝を支える筋力が低下し、病気が進行します。適度な運動を取り入れ、膝を支える筋肉を鍛えましょう。脚を伸ばして仰向けに寝た状態で、脚の上げ下げ運動をすると、膝を伸ばす筋肉である「大腿四頭筋」が鍛えられ、効果的です。無理のない範囲で筋トレをおこないましょう。

■ 膝を冷やさずに温めて血行を良くする

膝が冷えると血行が悪くなり、痛みが増すといわれています。サポーターやひざ掛けなどを活用して膝を保温するようこころがけましょう。
ただし膝に腫れ感や熱感がある場合は、患部を温めると逆効果となります。すでに膝関節症の症状が出始めている場合は、安静にして専門医に相談しましょう。

■ 日常的にストレッチをおこなう

ストレッチをおこなうことで、膝関節の動きを改善でき、予防に繋がります。膝の痛みがある方は、お風呂でストレッチすることも有効です。十分に身体が温まったあと、膝の曲げ伸ばしをすることで、膝の痛みを緩和できます。浴室で滑らないように注意しながら、無理のない範囲で毎日継続することが大切です。

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変形性膝関節症に関するよくある質問

変形性膝関節症に関して、患者さまが気になる質問についてお答えいたします。
Q変形性膝関節症でしてはいけない運動はありますか?

A

膝関節にとって、急に動く、急に止まるなどの動作は大きな負担になります。サッカーやバスケットボール、テニスなどの球技やスキー、スノーボードなどのウインタースポーツ、激しいジョギングなどの運動は、膝への負荷が大きいため、避けましょう。

Q変形性膝関節症でしてはいけない仕事はありますか?

A

膝関節に大きな負担が繰り返しかかる動作をともなう仕事は、できれば避けたほうがよいでしょう。たとえば、頻繁に立ったり座ったりを繰り返したり、重い荷物の上げ下げがある仕事、長時間立ちっぱなしや長距離の移動が必要な仕事、しゃがむ動作が多い仕事などはどうしても膝への負担が大きくなるため、おすすめできません。

監修医師紹介

監修医師紹介

西新宿整形外科クリニック 沼倉 裕堅 院長 Hirokata Numakura

  • 【所属学会】
    日本整形外科学会
    日本再生医療学会
    日本四肢再建・創外固定学会