再生医療の安全推進のために整備された3つの法律

2007年に京都大学の山中伸弥教授がヒトiPS細胞の樹立に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、日本では再生医療に対する期待が高まりました。

一方、こうした技術の進歩や人々の関心の高まりに対して、この当時、まだ再生医療に対応するルールづくりが追いついていませんでした。再生医療に対する研究については、2006年に定められた「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」の遵守が求められていましたが、医療機関で自由診療として再生医療を提供する場合、特別なルールはなく、医師の自由裁量に任されていたのです。また、人体に使われる細胞加工の培養・加工操作などの品質管理にかかわる基準や、構造設備の基準も明確に示されていませんでした。

このような社会的な背景を受けて、再生医療を安全に実施していく観点から、3つの法律が整備されました(図1)。その第1段となったのが、2013年5月に施行された「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」です。これは、再生医療の研究開発から、実用化までの施策の総合的な推進を図る目的で定められたものです。

その後、「再生医療等安全性確保法」と「医薬品医療機器法」がともに2014年11月に施行されました。前者は自由診療や臨床研究を行う際のルールを定めたものです。細胞の培養加工の外部委託が認められ、そのルールが定められました。また、後者は薬事法が改正されて名前を変えたもので、再生医療については、これまで以上に安全対策を強化する一方で、再生医療等製品の実用化の促進も図る内容になっています。

提供する再生医療のリスクに応じた3分類

「再生医療等安全性確保法」は、医療機関が再生医療等を提供する際に守らなければならない法律で、提供する医療のリスクに応じて第1種から第3種に分類されました。

第1種(高リスク)はES細胞やiPS細胞を扱う場合などを対象としています。第2種(中リスク)は体性幹細胞の培養を行う場合などを対象にしています。ADRC(脂肪組織由来再生幹細胞)を培養して治療を行う場合は、第2種に該当します。第3種(低リスク)は体細胞を加工する場合で、PRP(多血小板血漿)療法や、リンパ球を用いたがん免疫療法を行う場合が該当します。

第1種から第3種まですべての再生医療提供で、医療機関は計画書を作成しなければなりません。リスク分類に応じて審査の体制などが異なっていますが、この審査を経て、厚生労働大臣への提供計画の提出が義務づけられています。これを怠ると罰則が適用されます。

再生医療を受けた人は1年間で7万人以上

ルールが定められたことで、再生医療の研究や臨床応用は進んでいます。再生医療の提供計画を提出した医療機関は1年ごとに定期報告を行う必要がありますが、2018年4月1日~2019年3月31日までの定期報告件数は3870件。種別の内訳は、第1種16件(すべて研究)、第2種220件(研究64件、治療156件)、第3種3,634件(研究67件、治療3,567件)で、再生医療を受けた人数は7万413人(研究のみ3,006人、治療のみ6万7,407人)に上っています。

なお、再生医療を提供する医療機関やそこで実施されている再生医療の名称は、厚生労働省のホームページで確認することができます。
再生医療等提供機関一覧:https://saiseiiryo.mhlw.go.jp/published_plan/index/1/3

《参考文献》
飛田護邦, 安全性確保に関する法律(再生医療等安全性確保法について), 腎と透析. Vol.86 No.3 Mar. 2019
飛田護邦, 再生医療の発展と法的規制 -再生医療等安全性確保法について, 日本医師会「医の倫理の基礎知識」2018年版 https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/h06.html
厚生労働省医政局研究開発振興課「再生医療等の安全性の確保等に関する法律第21条第2項の規定に基づく再生医療等の提供状況に係る定期報告のまとめの概要」(2019年8月15日発表)