骨細胞、軟骨細胞、神経細胞などに分化できる

再生医療で使われている幹細胞には、大きく分けて、体のなかに存在している「体性幹細胞」、受精卵から培養してつくる「ES細胞」、人工的に作製する「iPS細胞」の3種類があります。このうち、医療への応用が最も進んでいるのが、体性幹細胞です。

体性幹細胞はいくつかの種類に分けられますが、そのなかの一つに「間葉(かんよう)系幹細胞」(Mesenchymal Stem Cells:MSC)があります。間葉系幹細胞は、筋肉や体腔などをつくる中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞で、骨細胞、軟骨細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞などに分化する能力をもっています(図1)。

間葉系幹細胞は骨髄の中で発見され、その後、脂肪組織、皮膚、胸腺、脾臓、子宮内膜などでも確認されていますが、部位によってその能力が異なることがわかっています。

その中で、最も注目されているのは、脂肪組織由来の幹細胞です。骨髄由来の幹細胞は採取できる量に限りがありますが、脂肪組織には幹細胞が豊富に存在しており、しかも骨髄由来の幹細胞に比べて、細胞増殖が速く、再生促成因子を多く分泌するなどの優れた特徴を備えています。変形性膝関節症で行われる再生医療では、脂肪組織から採取された幹細胞を用いています。

患部への移植方法

間葉系幹細胞を再生医療として用いる場合、一般に体から幹細胞を採取した後、培養して数を増やし、患部に移植します。その際に、局所で幹細胞が十分に能力を発揮できるように、細胞を組織化して高濃度・高強度となるように工夫します。たとえば、スキャフォールドと呼ばれる「細胞の足場」を用いて、細胞を立体的に組織化します。

また、スキャフォールドとは違って、細胞をシート状に組織化する方法もあります。細胞シートはスキャフォールドよりも作製しやすいのが利点ですが、強度は弱いので疾患を選んで使われています。

このほか、細胞の組織化を行わず、培養した幹細胞を患部に直接注入することもあります。組織化せずに直接注入しても、患部に到達しやすいと考えられる疾患で採用されており、ADRCを用いた変形性膝関節症の治療ではこの方法が用いられます。直接注入の場合は、複数回の治療が可能になるという利点があります。

1)丸山彰一, 脂肪由来幹細胞の臨床応用への展開. 医学のあゆみ. 2012; 242(4)

《参考資料》
千々良太ほか, 間葉系幹細胞を用いた再生医療の現状と課題. 整形・災害外科. 2018; 61(11)
長船健二(著), もっとよくわかる!幹細胞と再生医療. 羊土社 2016