膝への衝撃を吸収し、潤滑をよくするヒアルロン酸

変形性膝関節症の治療は、初期の段階であれば運動療法や痛みを緩和する飲み薬・貼り薬などを使いながら様子をみることもできます。人によっては痛みが軽快し、日常生活を送ることに問題のない場合もあります。ただし、飲み薬で最もよく使われる非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs:エヌセイズ)の場合、胃腸障害の副作用があるため、漫然と長期間飲み続けることはできません。

そこで、NSAIDsで痛みを緩和したあとに、ヒアルロン酸の関節内注射を始めるのが一般的です(図1)。ヒアルロン酸の関節内注射は、軽度、中等度の患者が対象になります。

ヒアルロン酸は、もともと滑膜から関節内に分泌されている関節内の成分です。粘りと弾力の両方の性質を併せもっており、膝関節への衝撃を吸収したり、潤滑をよくしたりする働きをします。ヒアルロン酸の関節内注射には、抗炎症作用や鎮痛効果も認められています。1),2)

一般によく使われているヒアルロン酸の関節内注射は、週1回のペースで5回打ちます。これで効果があれば、そこで治療を終了することもできますし、2週間から月に1回程度のペースで注射を続ける場合もあります。最初の5回で効果がみられない場合は、この治療を中止して、別の治療を検討します。

週1回のペースで3回注射すると、半年間効果が持続するタイプのヒアルロン酸もあります。これはよく使われている薬剤よりも分子量が多くなっていて効果が高いのですが、比較的副作用が多いため、医師の説明を十分に聞いて治療を受けることが大切です。

ヒアルロン酸の関節内注射で効果がみられない場合、従来は手術療法しか選択肢がありませんでした。しかし近年は、PRP(多血小板血漿)療法や、ADRC(脂肪組織由来再生幹細胞)療法といった新しい治療法が登場し、選択肢が増えました。

膝に水がたまるのは、炎症が原因

変形性膝関節症が進行すると、関節の中に水(関節液)がたまって膝が腫れることがあります。「膝に水がたまる」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、まさにそのことで、これを関節水腫といいます。

膝関節の炎症が強い場合や関節軟骨のすり減りが激しいと、関節内の潤滑をよくしようとして関節液がたくさん分泌され、過剰にたまる状態になるのです。このような場合、注射器を使って関節液を抜く治療をします。なお、「水を抜くと癖になる」と思い込んでいる人がいますが、これは誤解です。関節液を抜いても再び過剰にたまるのは炎症が収まらないせいであり、関節液を抜いたから癖になってたまるわけではありません。

膝の痛みが非常に強い場合、ステロイド薬を関節内に注射する治療もあります。痛みを抑える効果は非常に高いのですが、ステロイド薬が関節軟骨の新陳代謝や骨の再生を妨げたりするので、1回注射したら3ヵ月は間をあけるのが望ましいとされています。また、使う頻度も1年に2回程度にする必要があり、あくまで例外的な治療という位置づけになっています。

1)伊勢亀冨士朗, 関節外科. 1994; 13: 761-771
2)菊池寿幸, 関節外科. 1996; 15: 1422-1428

《参考資料》
杉山肇(著)ほか, 名医が語る最新・最良の治療 変形性関節症. 法研 2012