日本は、高齢社会を迎えて平均寿命は約80歳になっています。そのため、運動器の障害も増えています。入院での治療が必要になる運動器障害は50代から現れやすく、運動器を健康に保つことは多くの人にとって難しいことだとわかります。
日本整形外科学会では、運動器の障害により移動機能が低下した状態を「ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)」と提唱しました。
運動器は広く人の健康の根幹であるという考えで、年をとることに否定的なニュアンスを持ち込まないことが大切であるという意味でこの言葉が生まれました。
また、自身で気づくためのツールとして「ロコチェック(ロコモーションチェック)」と、ロコモティブシンドローム対策の運動「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」のパンフレットが作成されています。
下記のチェック方法があります。
立ち上がりテスト
2ステップテスト
ロコモ25
O脚・X脚とは、下肢の変形のことです。
O脚(内反膝)
両膝が外側に彎曲してしまう状態で、左右の内側のくるぶしをそろえても、左右の膝の内側(大腿骨内側部)がくっつかない。
X脚(外反膝)
両膝が内側に彎曲してしまう状態で、左右の膝の内側(大腿骨内側部)をそろえても、こちらは左右の内くるぶし(足関節内側部)がくっつかない。
原因は生理的なものと病的なもので区別されます。一般的に、乳幼児の膝は生理的にO脚になっており、歩き始めると徐々に外反していき、2~6歳にかけて逆にX脚傾向になります。その後、7歳ぐらいで成人の下肢形態(約4°の外反と言われています)に近くなり、それに連れて外反は少し減少します。
病的なものでは、靭帯異常(内側・外側側副靭帯などのゆるみ、欠損など)、先天的・後天的な大腿骨・脛骨の異常(Blount病、くる病、骨系統疾患など)、外傷後の変形(骨端線損傷、骨幹部外傷など)に分けられ、片側だけの変形が認められた場合には、病的なものを考えられます。
初期症状は外見の異常だけですが、変形が高度になると痛みや機能障害が生じます。
幼少期に発症することがほとんどですが、青年期に発症することもあります。
正確な問診や、理学所見(歩行開始後であれば歩き方も観察)、レントゲン検査などが行われます。
年齢不相応であるか、レントゲン検査で異常が認められたか、低身長などの内分泌性疾患(各種くる病)を想起させるものがあるか、遺伝性があるかどうか、などを参考にし、各種疾患の鑑別を行い、病的疾患の可能性がなくなった場合に、生理的O脚・X脚と診断します。
くる病のうちの一つであるビタミンD欠乏性くる病に関しては、ビタミンDを日常的に摂取することで予防できます。その他には特に方法がありません。
生理的なO脚・X脚は、自然に改善するため治療の必要はないと判断されます。
病的なO脚・X脚は、保存療法と手術療法に区別できますが、医療装具を用いた保存療法の効果については意見が分かれるところです。変形が高度になってしまった場合には手術が必要となり、下肢の異常形態を矯正するために骨切り術が行われます。
変形の程度によって、骨端線閉鎖を目的としたstaple(O脚では外側、X脚では内側に挿入)固定術を行うこともあります。骨端線閉鎖とは、骨端線(成長板)が閉じてしまい、骨の成長が止まることを指します。
腓骨神経麻痺では、腓骨頭部(膝の外側)が外部から圧迫されることにより生じるものです。
下肢の牽引などで仰向けに寝た状態が続いたり、ギプス固定をしている際に腓骨頭部が後ろから圧迫を受けると引き起こされます。 膝関節の後ろ側で坐骨神経から腓骨神経が分かれ、腓骨神経が膝の外側にある腓骨頭の後ろを巻きつくかのように走行します。その部分は神経の流れが乏しく、骨、皮膚、皮下組織の間に神経があるため、外側の圧迫によって簡単に麻痺が生じてしまいます。
ガングリオンなどの腫瘤、腫瘍、開放創、挫傷、腓骨頭骨折やその他の膝の外傷などでも生じます。下腿の外側から足の甲ならびに小指を除いた甲の背側にかけて感覚に障害が生じ、しびれが起こったり、触った感じが鈍くなります。 足首(足関節)と足指(趾)が背屈できなくなり、下垂足(drop foot)になってしまいます。
腰部椎間板ヘルニアや坐骨神経障害との判別が必要な場合があります。確定診断では筋電図検査、レントゲン検査、MRI検査、超音波検査などが必要と判断された場合に行われます。 下垂足が発症し、前述した感覚障害があり、ティネルサイン(神経障害部に衝撃を与えた際、その支配領域にうずきが放散する)があると障害部位が特定できます。
骨折や脱臼などの外傷、腫瘤によるものは早期に手術が必要とされます。原因が明らかでなく、回復の兆しが見られない場合は保存的治療にて治療を行います。3カ月様子を見て回復しなかったり、まひが進行する場合は手術が必要になります。
保存的療法では、圧迫の除去・回避、患部の安静、投薬、運動療法などが用いられます。
手術療法では、骨折や脱臼などの外傷で手術が必要と判断された場合や、腫瘤のあるものは手術を行います。神経損傷が認められた場合は、神経剥離、神経縫合、神経移植の手術が行われます。手術で回復の望みが見込めない場合は腱移行手術(他の筋肉で動かせるようにする手術)を行います。気になることがあれば、整形外科医にご相談ください。