肩周辺の痛み・障害(上肢の症状)

肩こり

肩こりは国民病ともいわれ、多くの日本人が悩まされる身近な症状です。首の後ろから背中や肩にかけて、筋肉がこわばったような張りやだるさが生じるのが主な症状で、年齢や性別を問わず幅広い方に生じるのが特徴です。症状の程度は人によってさまざまで、不快な痛みや頭痛、吐き気などをともなう場合があります。

診断方法

問診や視診、触診、レントゲン検査などで診断をします。また、眼疾患、耳鼻咽喉疾患、高血圧症などの随伴症状としての肩こりが生じることもあるため、必要に応じてMRIや血液検査、筋電図検査などをおこない、精査していきます。

予防と治療

「ストレートネック」や「猫背」といった不良姿勢は、首周辺にある筋肉の緊張を高めやすく、肩こりの症状を助長してしまうため、肩こりの予防には、筋肉の緊張や硬さを改善し、正しい姿勢を意識することが大切です。

また、治療方法には首周りのストレッチやマッサージ、患部を温めることによって血行を促進し、こりや痛みを和らげる温熱療法、飲み薬(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤)や湿布薬、塗り薬を用いた薬物療法などがあります。

当院では、特別外来で肩こりボトックス注射を実施しております。ボトックスには筋肉の緊張や痛みを和らげる効果があり、こっている箇所に直接ピンポイントで注射をすることが可能です。

翼状肩甲骨(翼状肩甲)

翼状肩甲骨は、腕を挙げる時に肩甲骨の内側縁が浮き上がり、折り畳んだ鳥の羽根のように見えるためこのように呼ばれます。
肩肋骨を支えている前鋸筋が麻痺すると肩甲骨の内側縁が浮き上がり翼状肩甲骨となり、腕を前方へ挙上できなくなったり、肩に痛みや脱力感といった症状がみられます。

診断方法

壁に手をついて身体を倒したり、腕を回したりなど様々な動作を行っていただき、筋肉の萎縮や麻痺の有無を観察します。
腕を前方に挙げることが難しい場合、肩関節の着衣をとり診察します。肩甲骨の内側縁が浮き上がる原因にはいくつかあるので識別する必要があります。

予防と治療

テニスのサーブ、ゴルフのクラブスイングのようなスポーツや、新生児の添い寝などで腕を挙げた状態で横向きで寝る肢位などで、前鋸筋が伸張されて麻痺するのが主な原因です。

スポーツや特異な肢位による前鋸筋の麻痺と判断された場合、原因となっている動作や肢位を避けることで、約9ヶ月ほどで回復します。2年以上回復しない場合には、手術が必要になるケースもあります。

五十肩(肩関節周囲炎)

中年以降の特に50歳代に多く現れ、その病態は様々です。
関節を構成する骨・軟骨・靱帯や腱などが老化し、肩関節の周囲に組織に炎症が起きることが主な原因と考えられています。
夜中にズキズキとした痛みが出る場合や、関節を動かす時に痛みが出る場合があり、さらに痛みがあるからと動かさないでいると肩の動きが悪くなります。

診断方法

圧痛部位や動きの状態をみて診断します。肩関節に起こる痛みには様々な原因があるためレントゲン撮影・関節造影検査・MRI検査・超音波検査などで区別します。

予防と治療

自然治癒することもありますが、放置してしまうと日常生活が不自由になることもあり、関節が癒着して動かなくなることもあります。

痛みが強い急性期は補助器具を使用してなるべく安静にして、消炎鎮痛剤の内服や注射などを行います。痛みが落ち着いてから温熱療法や筋肉強化などのリハビリを行います。これらの方法で改善しない場合は、手術を行う場合があります。

肩腱板損傷

腱板とは、肩にある4つの筋肉の腱が板のように平べったく重なっている部分を指し、肩が安定して自由に動くためには欠かすことのできない重要な組織です。この腱板が傷ついて損傷を受ける病態を「肩腱板損傷」といいます。
腕を後ろに回したり、腕を袖に通すなど、肩の安定性が求められる動作で痛みを生じやすくなります。
なかには「夜間痛」と呼ばれる、夜寝ている時にうずくような痛みが肩に生じて寝付けない場合もあります。

診断方法

診察にて、痛む場所、痛みが出る動作などを確認し、エコー検査やMRI検査で正確な診断をするのが一般的です。
腱板損傷の範囲や程度、炎症の有無などを確認し、所見がみられれば腱板損傷と診断されます。

予防と治療

肩腱板損傷は、年齢を重ねるにつれて腱板が変性してしまったり、徐々に擦り切れて発症する場合と、野球やテニスのような腕を振るスポーツ動作や重たい荷物を繰り返し持つ作業などの負荷により生じる場合の2通りが主な原因に挙げられます。

痛みが強い・夜間痛がある場合は、関節内に局所麻酔やステロイドを注射して痛みを緩和しながら、可動域訓練や筋力訓練などのリハビリテーションを行うことで、損傷部以外の腱板筋機能を向上させたり、体幹を鍛えることで損傷部への負担を減らし、痛みの緩和を図っていきます。

腱板損傷の範囲が大きかったり、回復が見込めない場合は手術を行う場合があります。

石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)

40代から50代の女性に多くみられ、突然肩関節に強い疼痛が生じます。
肩腱板の内側にリン酸カルシウム結晶(石灰)が沈着することで急性の炎症が生じて肩の疼痛・運動制限が起こります。期間が経つにつれて石灰が徐々に硬く変化していき、腱板から滑液包内に石灰が破れ出た時に強い痛みが表れます。

診断方法

圧痛の部位や肩の動きの状態などをみて診断し、レントゲン撮影によって腱板部分に石灰沈着の有無を確認する事により診断します。石灰沈着の位置や大きさを調べるためにCT検査や超音波検査なども行われます。
腱板断裂の合併が認められる場合、診断にMRIも用いられます。

予防と治療

急性型の場合、強い痛みをいち早く取るために、腱板に針を刺して沈着した液体状の石灰を吸引して取り除く治療を行います。
その後補助器具などを用いて患部を安静にし、消炎鎮痛剤の内服、水溶性副腎皮質ホルモンと局所麻酔剤の滑液包内注射などを行います。亜急性型や慢性型は、石灰沈着が固くなり痛みが再発してしまうことがあるため、必要に応じて手術で摘出します。 痛みが落ち着いてから温熱療法やリハビリテーションを行い肩の機能を回復します。

腕神経叢損傷

バイク走行中の転倒、スノーボードなどのスポーツで高速滑走時の転倒、機械に腕が巻き込まれるなどの、腕が引き抜かれるような強い外力が働くと、腕神経叢が引き伸ばされることで損傷します。鎖骨上窩への刺し傷・切り傷や、鎖骨骨折による骨片が突き刺さった場合、肩関節の脱臼などでも損傷します。
上肢のしびれ、肩の挙上や肘の屈曲ができなくなったり、時には手指も全く動かなくなります。

診断方法

詳しい神経学的診察・検査で、腕神経叢のどの部位が、どの程度損傷されたのかを判断します。
損傷高位と範囲により、上位型、下位型、全型に分類されます。

  • 上位型
    肩の挙上、肘の屈曲が不可能になります。肩の回旋、前腕の回外力が低下します。上腕近位外側と前腕外側に感覚障害があります。

  • 下位型
    前腕にある手首・手指の屈筋や手の中の筋の麻痺によって手指の運動が障害されます。前腕や手の尺側に感覚障害があります。

  • 全型
    肩から手まで上肢全体の運動と感覚が障害され、全く動かすことができなくなります。経根の引き抜き損傷があるとホルネル徴候である眼瞼下垂、眼裂狭小、瞳孔縮小が見られます。

予防と治療

損傷の程度や状況に応じて手術や、術後のリハビリテーションを行います。
自然回復が全く期待出来ない場合、神経移植術などで損傷部の再建が可能か、それが不可能な神経根引き抜き損傷か、早急に判断しなければなりません。手術で再建が可能と考えられる場合には神経移植術、再建が出来ない神経根の引き抜き損傷の場合には肋間神経や副神経の移行術が行なわれます。

胸郭出口症候群

つり革に捉まる際や、物干しの時のように腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。
なで肩の女性、重いものを持ち運ぶ職業の方に起こりやすく、腕尺側と手の小指側に沿って疼くような感覚や、刺すような痛み・しびれ感などの感覚障害に加え、手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状があります。

診断方法

様々な動作を行っていただきながら脈やしびれの有無などを確認し、神経障害や血流障害があるか診察を行います。
レントゲン検査や肋鎖間隙撮影を行う場合もあります。

予防と治療

上肢を挙上した位置での仕事や、重量物を持ち上げるような運動または労働、重いものを担ぐような動作は症状を悪化させるため、なるべく避けることが大切です。
軽度の治療の場合は強化運動訓練を行ない、肩甲帯が下がるなで肩などの不良姿勢の場合は肩甲帯を挙上させる装具を用いた治療を行います。消炎鎮痛剤、血流改善剤やビタミンB1などの投与が行われる場合もあります。
頚肋(胎児期に出てくる本来必要のない肋骨のなごり)や絞扼(組織や血管が圧迫された状態)があれば、障害の原因を切除する手術をおこなう場合もあります。

反復性肩関節脱臼

肩関節に最も多くみられる症状で、多くの場合外傷性(スポーツや転倒など)の脱臼をきっかけに起こります。
外傷による肩関節の脱臼は、ラグビー・アメフト・柔道などの衝突・転倒などが多い競技(コンタクトスポーツ)に多く、一度脱臼を起こすと繰り返し脱臼しやすくなり、寝返りやくしゃみのような日常生活の中で起こる小さな外力でも脱臼が起こりやすくなってしまいます。これを反復性肩関節脱臼と呼称されています。

診断方法

レントゲン検査で脱臼していることと骨折のないことを確認します。
関節造影やCTなどで損傷の程度を診断します。

予防と治療

脱臼を整復することで通常通り使えるようになりますが、その後スポーツ活動や日常生活の中で脱臼を繰り返し、活動が制限される場合は手術が必要になります。術後は、関節や筋肉の運動などのリハビリテーションが大切です。

  • 上位型
    肩の挙上、肘の屈曲が不可能になります。肩の回旋、前腕の回外力が低下します。上腕近位外側と前腕外側に感覚障害があります。

  • 手術後の禁止事項
    肩甲骨よりも後ろで手を使う動作は、術後3ヵ月間までは行わないで下さい。
    物を取るときは、身体を回して体の前で取るようにし、後ろ手をついて起きあがらないで下さい。

  • 手術後のスポーツ復帰
    術後約3ヵ月までは再脱臼を起こすような動作は日常生活でも避ける必要があります。
    コンタクトスポーツへの復帰には約6ヵ月かかります。

監修医師

SBC横浜駅前整形外科 院長

川﨑 成美 医師Narumi Kawasaki